トップカイザーサウンドオーディオクリニックの旅埋もれるほどの量の機材に囲まれて

埋もれるほどの量の機材に囲まれて



 クリニック訪問開始以来初めての四国訪問


 四国にクリニックの仕事が出来ましたので、その道程の中でもう1件と思い何人かの方を候補として上げました。その中でも、とても珍しい楽しみ方をなさっておいでのN.Fさんに無理をお願いしての訪問となりました。

 『私なんかただの変わり者で、音は聴けたものではないと思いますけど、それを承知の上でお越し下さるのは構いません』と夜勤明けの厳しい条件にもかかわらず快く引き受けて下さいました。そのN.Fさんのお宅は徳島県と香川県の県境に位置する山深いところで、つづら折りを走る車の窓越しに目に入ってくる畑や川や集落などの景色は日本おとぎ話に似合いそうです。

 N.Fさんは半農半業なんでしょう、離れの1階部分には収穫されたジャガイモが広げてあります。その2階の12畳の部屋で4組のスピーカーを楽しんでおられるます。事前にある程度の事をお聞きしていましたのでビックリはしませんでしたが、いきなりでしたら腰が抜けていたのではと思うほど凄い機材の数なんです。その量たるや、ちょっとしたお店が出来そうです。

 目で見るかぎりではコレクターというのでもなさそうですし、私には目的がよく読み取れません。

 勇気を出して訊ねますと、

 『あれも聴いてみたいなぁ、これも聴いてみたいなぁ、と思っていたらこうなった』。

 『変わっているでしょう?』と屈託のない笑みで答えてくれました。

 
 『A&Vvillageの記事を見て、今年の初めにローゼンクランツのフェーズプラグを買ってみました』。

 『すると、シグネチャー805が生まれ変わったように変化し、

 音楽性豊かに鳴ってくれるようになったのには驚きました』と嬉しくなるような事を言ってくれます。

 
 「普段はどんな音楽を好んでお聴きになるのですか?」。

 『邦楽女性ポップスが比較的多いですね』。

 「それでは何より先ず、そのS805の音をお聞かせ願えませんか?」。

 CDプレーヤーは放送局仕様のフィリップスLHH-2000、プリがマランツモデル7、パワーはマッキントッシュMC-2600。この布陣は世界中を捜し歩いたとしても、恐らく聴く事は出来ないでしょう。音質はというと、たっぷりとしたゆとりを感じさせる濃密で芳醇な音なんです。オーディオ的な問題点を挙げれば色々とありますが、S805とは俄かには信じ難い鳴り方です。

 次にお聴かせ頂いたのがJBLの4344です。これには同じくマッキンの275レプリカでバイアンプ駆動。約30秒ほどで次はバンダースティーンに切り替えて貰います。FASTのハイブリッド型プリメインで鳴らしたのだろうと思うのですが、ここらあたりになると何をどう繋いで聴かせてくれたのか訳が分らなくなってきました。さらにヤマハの1000Mと矢継ぎ早に4機種を聴きました。


 簡易クリニックのお薦め


 総じて共通した鳴り方に感じたのは、低・中・高のエネルギーバランスが上手く揃っていない点です。そこのところをうまく調整してやればもっともっと音楽を楽しく聴けるはずです。そこで私が提案させて頂いたのが最低費用で出来るS805のクリニックです。一番手前に置いてあるということからしましても、現在ではご本人にとってそれが一番聴く時間が長いのでしょう。

 普段はもっと頂くのですが、今回は私の方から伺う事になった話ですから特別サービス料金でのご案内です。それでもこうした音を良くするといったソフトウエアーの部分にお金を払う事に不慣れなのか、顔は曇ったままで一向に前に進もうとしません。「ご心配要りません、クリニックを施し、その結果が気に入らなければお金は頂きませんから」と言いますと、初めて安心されたのか首を縦に振られたのでした。

 ここからは息子の仕事です。彼の巧いところは誰もが思いもしないようなさりげない方法で音を良くする目利きの部分にあります。先ず手掛けたのは右側のスピーカーに繋がれているアインシュタインのグリーンのスピーカーケーブルの低域用と高域用のケーブルの差し替えによる音の違いの確認作業です。

 50%の確率で繋ぐ序列に違いが出ます。要するにロールになったケーブルを切断する際の戸籍簿順に生まれの早いモノを低域側に繋いだ場合、ケーブルの方向性が合っていたとしても、他方のモノも同じ順番で繋がなければ、音楽の感情表現に大きな影響力を持つ流麗さが殺がれてしまう結果になるのです。それが今回の場合、左は良いのですが、右チャンネルが逆になっていたという事なんです。

 この違いを聴いたN.Fさんは、『何故、上と下のケーブルを差し替えただけでこんな違いが出るのか?、不思議なのを超えて恐ろし過ぎる』とのコメントです。この件で一気に興味を持ったのでしょう、それ以来膝を乗り出すように作業を見守るようになったのです。今の今、生まれて初めて音のカルチャーショックを受けたのではないでしょうか?。良い音を聴いた経験がなければ、比較する材料がない訳ですから、解れと言う方に無理があるのかもしれません。それは彼の口から出た言葉で容易に判断出来ます。


 スパイクの調整


 真ちゅう製のスパイク受けの下に粘着性の物でシッカリと床に貼ってある関係上、スピーカースタンドその物を前後に動かす事が出来ないのでそれ以外で調整を取らなければいけません。片側のスピーカースタンドのスパイクの調整からです。水平を出す作業と共にスパイクの上に覗く長さと下に出る長さの関係を、低・中・高のエネルギーバランスが一番整うような比率配分にします。

 この作業をし始めて分った事は、スタンドベース部分のM8のタップを大きめに切ってある事が原因でナットを外した時点でスパイクがグラグラ揺れるのです。これでは音の汚れやニジミガ発生し問題点大いにありです。ですから締めて調整したと思っても、また狂っているのです。そんな訳でガタツキのない調整を取るのに一苦労です。本当はローゼンクランツのエコブラス製スパイクを付けて音を試しに聴いて貰うのが一番良いのですが、押し売りするようであってもいけませんし、一度外せばネジ山に狂いが生じ、その後の音に悪影響が出る恐れがあるのと両方の理由でそれは止めにしました。

 問題のある中でも何とか聴けるだけの状態になったと判断したのでしょう。

 「どうぞ、お好きな曲を聴いてみて下さい」といってスパイク調整後の音を聴いて貰います。

 『凄い!、凄すぎる!』の言葉と共に嬉しいのを通り越してN.Fさんは半ば呆れ顔です。

 何が凄いのか分らないでしょう、聞こえた事のなかった音がどのディスクからも聞こえる訳ですから、

 まるで魔法を目の前で見せられているような気分なのではないでしょうか。


 スピーカースタンドのスパイクの取り付け方一つで、このような音の差となって現れるのですから音とは本当に奥が深いですネェ!。とにもかくにも、これだけ進んだセッティングによる音の違いというものに触れるのは初めてでしょうから、当然といえば当然であります。またそれが毎日聴いている自分のシステムで目の当たりにした訳ですからなおさらの事でしょう。


 「ナイアガラJr.」の試聴


 後から息子から聞いた話ですが、本当は次にはインシュレーターの性能を体験頂きたかったのですが、機器のじか重ねが多い為に正確な判断をして頂くには困難とみて止めにしたようです。その代わりに電源タップの「ナイアガラJr.」の音を聴いて貰います。それも色々な理由があってパワーアンプのみを繋いだ状態です。

 その音が出て少しの間は私さえも一番奥の4344が鳴っているのかと思い込んでいました。あれでもと思い、耳をS805に近づけると何とそこから音が出ているではないですか。これには私も驚きましたネェ。どうしてかといいますと、昨日の夜10時に東京を出てからずっと徹夜で運転していたので、つい”ウトウト”と居眠りしていたのです。機器の持っているポテンシャルがあまりにも高いからこんな常識では信じられないような音が出るのでしょう。

 1メーターちょっと前にある小型スピーカーが鳴っているのもかかわらず、5メートルほど後ろの大型スピーカー4344が鳴っていると錯覚したのですから、本当にスケールの大きな音楽が鳴っていたのです。セッティング一つでここまで鳴ったら反則も良いとこでしょう。

 これにはN.Fさんも『これその物を買う事が出来るのですか?』とかなり興奮状態でした。後もう一軒聴いて頂かなければならないところがありますので今日のところはご勘弁下さいとやんわりとお断りしたぐらいです。

 小学生のように嬉しさを顔一杯に広げるN.Fさんに息子は黙っていられず、この後「ちょっとサービスしておきましょう」といって、4344のアッテネーター調整を音も出さないでやってのけたのです。「先ほど30秒ほど聴いて、何がどうなっているのか全て頭に入っているから出来る」と言うのです。これは私には出来ない芸当です。「念の為に何でもかけて聴いて下さい、バッチリですから」と自信たっぷりです。

 そうですネェ、4344が本来持っている能力をやっと発揮し始めたといった鳴り方です。

 これぞJBLサウンドの真髄!。

 それはそれは、凄い迫力で迫って来ます。

 良かったですねN.Fさん。


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